土星の環は、なくなるか?

土星の環は、なくなるか?

投稿日:令和4年9月1日

執筆:教授 石山俊彦

 この小論を書いている2022年8月下旬は、季節が夏から秋へと移りかわる時期である。夜空を見上げると、土星は深夜に南に見える「やぎ座」にある。これから秋にかけて、土星が観測しやすいシーズンに入る。土星は、天体観望会を開催すると一番の人気者である。土星本体の周囲に環を持つ独特のルックスは、子どもたちの興味を引いてやまないのだろう。
 土星の環を最初に見たのはガリレオだが、望遠鏡の精度の問題で、彼は土星の周りにあるものが環であることに気づかなかった(土星の環を発見したのはホイヘンス)。長い間、土星にのみ環があるということは謎だった。他の惑星には環がないのかというと、実は細い環があるものの、地球上からは直接観察することはできない。他の惑星の環は、1977年に天王星が背後の恒星を隠す現象(掩蔽)の観測から発見された。木星と海王星の環は、深宇宙探査機(ボイジャー1号、2号)による観測によって発見された。こうした観測の結果、惑星の環は、巨大惑星には珍しいものではないということがわかってきた。
 どうして、土星だけが(地上から観測できるほどの)立派な環を持っているのだろう。木星などの他の惑星も、何年か経てば土星のような立派な環を持つことができるのだろうか。この疑問にカリフォルニア大学の研究者が答えてくれた。彼らの論文によれば、木星は巨大な衛星(ガリレオ衛星)を持つことで、環が作られても安定に成長できないことがシミュレーションにより計算された。
 それでは、土星の環は、これからも安定に存在し続けられるのだろうか。探査機「カッシーニ」で土星の環を観測した結果によれば、環を構成する物質(数ミクロン~数十メートルの大きさの氷と考えられている)が土星の本体に降り注いでいることがわかった。土星の環を構成する粒子は、必ずしも、安定な状態で土星の周りを回っている訳ではない。環の将来は、それを構成する粒子の供給量と土星本体に降り注ぐ量(放出量)のバランスで決まるようだ。 
NASAの研究者によれば、土星の環は1億年位前に形成され、早ければ1億年後にはなくなると予想されている。宇宙は138億年前に誕生したと考えられているので、土星が環を持っている期間は、それほど長いものではないようだ。もし、数千万年後にも人類が生存していれば、その頃の人類は細くなった土星の輪を観察することになるだろう。現在の土星は、口径5~6cm程度の小型望遠鏡でも、その環を楽しむことができる。我々は、土星の環を楽しむことができる、ちょうど良い時代に巡り合ったようだ。こうした事もサイエンスの不思議さやめぐり合わせなのかもしれない。

※土星の環の誕生、消滅には諸説あります。本稿では、NASAの研究者による説を取り上げました。