必要と必然

必要と必然

投稿日:令和4年10月1日

執筆:教授 川本清

 「アルスエレクトロニカ」というイベントがある。結構メジャーな催しのようだが、浅学にして最近読んだ書籍[1]で知った。オーストリアのリンツで40年近くわたり毎年開催されていて、同名の公設企業体を設置するまでに発展しているらしい。リンツの人口は約20万人というから、八戸と近い。ことのはじまりはクラシック音楽フェスティバルの関連プログラムとしての電子音楽のイベントだったとか。日本でいうところのコミケのギーク版のようにも思えるも、第1回から「アート,テクノロジー,社会のための祭典」として定義されていたという。本書によると、アートとテクノロジーのそれぞれの民族誌が織り合わされるように「アルスエレクトロニカ」は発展しているように読み取れる。今では地域のみならず行政も加わって、アーティストのみならず企業も集積されているようで、地域振興の成功例ともいえるだろう。
 八戸市の取組にもいろいろあるが、最近なら「本のまち八戸ブックフェス2022」[2]がある。先月末、市中心街の複数施設を会場に、「はちのへホコテン」[3]と同時開催された。私のスケジュール帳を見てみると2014年には現在も実施されている「本のまち」関連イベントに私的に参加していた記録がある。八戸ブックセンターが開館5周年を迎えたというから、「本のまち」という事業は、まだ10年にはならないが、規模も拡大し実施環境も充実してきているのだろう。そこで、「本」をキーマテリアルに、地域の拠点化を図ることを妄想してみよう。出版不況といわれる昨今、紙だけではなく電子書籍関連の掘り起こしは必須だろう。電子化なら地域は関係ない(!)かもしれないが、手持ちのワープロ作成の文書をただEPUBやPDFにするのみでは味気ない。やはり可読性や見映えを追求した電子版の高い編集力のある地域、書籍にとどまらず、デジタルアーカイブの構築ノウハウを蓄積した地域、著作権処理がスムースに進む地域、というのは魅力にならないだろうか。デジタルコンテンツは閲覧システム、表示デバイスの利用方法とも密接に関連する。ニーズが身近になればハードウェア関連にも何か展開が(クリスタルバレイ構想[4]再び…)、あるだろうか。「ネットは広大」だ。地域で動く時代ではないかもしれない。しかし、アンプラグドな状態でも関係者が近くにいる、という状態まで集積が進めば、フェイズシフトが起きないだろうか?
 リンツはもともと鉄鋼業で成り立った都市だという。それが鉄鋼不況を経て「アート,テクノロジー,社会」を結び付ける地域に変容した。上の「本」からの展開はあくまで凡庸なたとえ話に過ぎない。時代は変化する。将来を見わたしたとき、社会と環境の必要と地域の必然を満たすアジェンダとはどのようなものになるだろうか。
[1] 鷲尾和彦、「アルスエレクトロニカの挑戦」、学芸出版社(2017).https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761526412/
[2] 八戸ブックセンター「本のまち八戸ブックフェス2022」紹介ページ、https://8book.jp/bookcenter/5232/
[3] 株式会社まちづくり「八戸のはちのへホコテン」ページ、https://www.8town.co.jp/project/hokoten/
[4] 近藤信一、「青森県の『クリスタルバレイ構想』―構想はなぜ挫折したのか―」、機械情報産業カレント分析レポートNo.82(2011年1月). http://www.jspmi.or.jp/system/file/6/25/current_82.pdf