光の技術と持続可能な社会

光の技術と持続可能な社会

執筆:教授 川本清

 ちょうど一ヶ月ほど前のことだが、5月16日はユネスコ制定の「国際光デー」であった。この記念日は国連が2015年を「光と光技術の国際年―国際光年」とすると宣言したことに端を発する。「光年」開始の数か月前、2014年秋には「高効率な青色発光ダイオードの開発」にノーベル物理学賞が授与され、一部界隈では「応用」が獲ったと話題になった。事実、ノーベル財団のプレスリリースは「New light to illuminate the world」と記し、青色LEDが可能にした高効率な白色照明の実現こそが高く評価されたことがうかがわれる。今や、照明をはじめ光発電、光通信といった光を含む電磁波・電磁場を操作する技術は社会に深く組み込まれている。「光年」ののち、2018年からは「光デー」が毎年実施されているが、これも光に関する技術がこれからの世界の公平や公正を支える基盤たり得るとの考えが表れたものといえるだろう。
 2015年「国際光年」は、今世紀の初めに掲げられた「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)」の最終年でもあった。近頃話題の「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」はその後継事業という位置づけである。持続可能な「社会の実現」と掲げてもいいようなものを「開発目標」と唱えるのは、人の世を持続させているものが経済的人為的なものであるからであろう。「サスティナブル」というと「エコロジカル」で「ナチュラル」でなければならないような感覚を想起しがちではなかろうか(偏見かもしれない)。だが、我々が持続させんとする現代社会は科学や工学の作り出した人工的な技術社会の一面も持つ。目標の実現には産業界を巻き込む必要がある。これらの目標は環境に配慮し自然と調和した技術開発を促すための方便と捉えることもできるだろう。
 現在は以前に比べ、センシングの技術が発展しデータの蓄積も進んでいる。地球を空間的・時間的に俯瞰して眺めることもより容易になっている。人類の活動が地質学レベルで痕跡を残すことになるであろうと名付けられた「人新世」についての認識の高まりも、地球を客観的に分析する立場と軌を一にする。MDGsやSDGsに共通するキーワードが「誰ひとり取り残さない」社会の実現である。それは科学・技術へのアクセス人口の増加にもつながるだろう。何かを持続的に保つためにはそれに携わる人が持続的に現れなければならない。そして、人類の遺す地質学的痕跡も、増え続けることとなろう。経済活動をする人類の存在も、また、地球の一部なのだ。
 「国際光デー」は、何も光技術の発展のみに着目した記念日ではない。日の光にあたり、夜空の星を見上げ、光にまつわる文化や芸術を楽しむことも、我々の日常の中にある。広く普及した技術は文化や芸術に自然と取り込まれていく。SDGsの目標年限である2030年を想像してみよう。
 あなたは、どのような暮らしを望みますか?

「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」
P. Gauguin 1897, ボストン美術館蔵(Wikimedia Commons / パブリック ドメイン).