電気が描く不思議な模様

電気が描く不思議な模様

執筆:教授 信山克義

 木の枝?それとも雷の稲妻?皆さんは、木の板に描かれた模様が何に見えましたか?この不思議な模様は1777年ドイツの物理学者リヒテンベルクによって発見され、発見者の名前から「リヒテンベルク図形」と呼ばれています。この模様の作り方について説明します。
 木は電気を通しにくい性質を持つ“絶縁体”です。この木の板の表面に食塩水を塗ります。食塩水には、電気が流れるために必要なイオンが含まれています。表面の上の方に平らな金属を挟み、下の方に針を刺します。そして平らな金属と針の間に15,000~20,000Vという高い電圧を加え続けます。すると針に電界が集中し、針付近から局所的に放電して木の絶縁性が壊れていきます。放電した部分は熱によって黒く焦げてしまい、樹枝状の模様が現れます。この現象は、学園祭の研究室展示で披露しており、「リヒテンベルク図形」が描かれた木の板を来場者にプレゼントしています。この木の板は手のひらサイズでキーホルダーにもなり、描かれた模様は“世界に一つだけ”なので大変喜ばれています。
 さて、私たちの身の回りには携帯電話やパソコン、テレビ、エアコン、洗濯機などの電気機器があふれており、すべて電気で動いています。これらの機器を動かすためには電気を流す必要があり、銅やアルミニウムなどの“導体”を使います。その一方で電気を流しにくくする部分も必要であり、高分子(プラスチック)などの“絶縁体”が使われます。この高分子の中に異物やボイド(空洞)があると電気的な弱点となり、局所的な放電が発生することがあります。この放電が繰り返されると高分子の中で樹枝状(トリー状)の劣化が進み、「リヒテンベルク図形」が3次元的に現れます。この現象を“トリーイング劣化”と呼んでいます。電気電子工学に関する専門分野では、電気機器を安全に長期間使用するため、この現象を起こりにくくしたり、発生メカニズムを明らかにするための研究が行われています。