アナログこそ大事

アナログこそ大事

執筆:准教授 越田俊介

 ディジタル信号処理の基盤技術の一つに、ディジタルフィルタがあります。信号処理の分野において、ディジタルフィルタはアナログフィルタとともに信号分離や雑音除去等の用途で用いられる非常に重要なシステムです。

 ディジタル信号処理に関する多くの教科書や入門書では、ディジタルフィルタがアナログフィルタと比べてどのような点で優れているのかについての記述が必ずあります。たとえば、ディジタルフィルタは計算機の数値演算を中心としたプログラミングによって実現されるため、アナログフィルタにおいて問題となる回路素子の劣化がありません。また、ディジタルフィルタではプログラムの内容を変更することにより、実現したい特性を容易に変更できるとともに、特性をリアルタイムで変更させる適応・可変フィルタを実現することも可能です。このように、ディジタルフィルタがアナログフィルタと比べて優れている点はさまざまあります。この話題に言及すると、「今後、アナログフィルタは不要になるのでしょうか?」「アナログの勉強はしなくてもよいのでしょうか?」という質問を度々受けますが、もちろん答えはノーです。

 アナログの重要性はさまざまな観点から説明できるのですが、それらの全ては、「我々人間に届く信号は全てアナログである」という事実に起因します。たとえばディジタル信号処理システム全体を考えると、A/D変換におけるプレフィルタおよびD/A変換におけるポストフィルタはそれぞれアナログフィルタとして組み込まれていますので、ディジタルフィルタを実装する場合においてもアナログフィルタは必ず使われます。また、本学では昨年度にロボット工学プログラムが開設されましたが、ロボットを自分の意図通りに操作できるようになるためには、動作のプログラミング(ディジタル)はもちろん、ロボットと周辺環境との相互作用の理解(アナログ)等も必須となります。したがって、ディジタル信号処理を専門とする人にとっても、アナログの理論を理解するとともに、アナログフィルタをはじめとする電気回路や電子回路を自身で実装できるようになる等、アナログ技術を習得することこそが重要です。

 本学科では、全体として見るとアナログに関係した内容の講義と実験が多いですが、その一方でアナログとディジタルの両方を深く学ぶ機会も十分に提供されており、信号処理を学びたい人にとっても恵まれた環境であると感じています。