
燃料電池が脱炭素化社会を支える
執筆:教授 信山克義
自動車の排気ガスには地球温暖化に多大な影響を与える二酸化炭素(CO2)が多く含まれており、日本ではCO2排出量のうち、16%は自動車が占めています1)。そのような中、経済産業省は福島全県を新たなエネルギー社会のモデル創出拠点とする「福島新エネ社会構想」を策定し、再生可能エネルギーの導入を拡大するとともに、再生可能なエネルギーから水素を「作り」、「貯め・運び」、「使う」ための実証や、県内各地でのスマートコミュニティー構築などを推進しています2)。また、福島県とトヨタ自動車は、県内のスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどと連携し、水素で走る燃料電池車(Fuel Cell Electric Vehicle, FCEV)のトラックを活用した物流の実証を始めます3,4)。このFCEVは水素タンクが搭載されており、CO2を排出せず、最終的に出るのは水であるため、究極のエコカーとも言われています。
さて、従来の化石燃料による発電方式では、燃料(化学エネルギー)を燃焼させ、発生した水蒸気(熱エネルギー)でタービンを回し(運動エネルギー)、発電用コイルを介して電気エネルギーに変換するため、かなりのロスが生じてしまいます。さらに、発電所からの送電ロスもあるため、最終的に利用できる電気エネルギーは35%程度です。一方、燃料電池は、水素を燃料として供給することで、酸素との電気化学反応により取り出される電気エネルギーを電力として利用します。すなわち、燃料電池は化学反応に伴うエネルギーを電気エネルギーに直接変換することができます。また、燃料電池は電気を使用する場所に設置できるため、送電ロスが少なく、最終的に利用できる電気エネルギーは80%にもなります5)。さらに、燃料電池の排熱も利用できるメリットもあり、自宅で電気を作り、発電時の熱でお湯も作る「エネファーム」が普及しつつあります6)。このように、燃料電池は脱酸素化社会を支える次世代の発電装置として注目されています。
工学科電気電子通信工学コース(2022年4月、電気電子工学科より改組)では、1学年時に「電気電子通信工学入門」という科目が開講され、その中で燃料電池の製作を行い、その仕組みや特徴について学習します。

- 国土交通省:「運輸部門における二酸化炭素排出量」,
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html - 経済産業省 資源エネルギー庁:「福島新エネ社会構想について」,
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/fukushima_vision/ - トヨタ自動車:「燃料電池自動車MIRAI」,https://toyota.jp/mirai/
- トヨタ自動車:「福島県での水素を活用した新たな未来のまちづくりに向けた検討を開始」,
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/35386895.html - 富士電機:「燃料電池の特長」,
https://www.fujielectric.co.jp/products/fuelcell/principle/merits.html - パナソニック:「エネファーム」,https://panasonic.biz/appliance/FC/index.html
