教員免許更新制度の「廃止」問題の行方

教員免許更新制度の「廃止」問題の行方

執筆:教授 松浦勉

 この夏の7月から8月にかけて、安倍晋三政権が導入を強行実施するための法整備を行った「教員免許更新制度」について、文部科学省がその「廃止」の検討に入ったと、全国紙をはじめとするメディアが報じた。報道によると、7月に萩生田光一文科大臣が中教審に「廃止」を検討するように指示し、8月後半と9月末には、「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会教員免許更新制小委員会の「審議のまとめ」なるものが出されている。メディアの報道を見てみよう。たとえば、日本経済新聞は、8月23日づけで「教員免許更新制、23年にも廃止、指導力の向上なお課題」の見出しをつけて、今年度の通常国会への制度の廃止のための教育職員免許法改正案の提出→最速での23年度の更新制の廃止という「見通し」を示した。また、更新制度に代わる新たな制度設計については、文科省が「自治体や大学……と連携し、教員が資質向上のために学び続けられる制度」の検討に入ると書いた。

 もともと、3月12日の文科相の諮問段階では、諮問の五つの検討課題の③に「教員免許得更新制の抜本的な見直し」とあったのであり、廃止ではなかった。すでに、免許更新制の数多の「弊害」だけは繰り返し指摘されていた。これが「廃止」の検討に発展したのは、次の二つの要因が無視できない。一つは、文科省による現職教員の更新制に関するアンケートにたいして、教員が全体としてこの制度にノーを突きつけたからである。これは具体的なデータで確認されている。もう一つは、文科省が3月末に、「♯教師のバトン」プロジェクトを立ち上げ、現職教員の生の声に耳を傾けようとしたことが、まったく裏目にでたことである。教職の「専門家」である現職の教員たちに教職の魅力をたずねたところ、魅力どころか、勤務する職場の「ブラック学校」化の実態が次々と告発され、「炎上」してしまったのである。10月24日づけの朝日新聞は、こうした事態を「♯教師のバトン すれ違い」と報じた。

 しかし、こうした現職教員の声は、文科省サイドの人びとには十分に届かなかった。

 おそらく中教審が出す結論は、更新制の「発展的解消」とされる、次の二つの施策が主要な柱となるシステムであろう。第1は、教員全体の研修履歴の記録と管理を、都道府県教育委員会に、一元的に統括させようという施策である。教員にも、子どもたちと同様に「主体的・対話的な深い学び」が必要で、またそれは一人一人の教員に「最適な学び」でなければならない、と「審議のまとめ」案はいうが、こうした学びないし自己研修が実質的に保障される条件は何もない。

 もう一つは、第6回の「審議のまとめ」案が示すような、「必ずしも主体性を有しない教師に対する対応」として、中教審が文科省サイドに、強権的で具体的なガイドラインの作成をもとめている施策である。これについて、前述の産経新聞は、肯定的に報じていた。

 

 「審議のまとめ」案の20ページには、以下の記述がある。

 

(都道府県教委が期待する研修の成果をあげていない教員に対しては、)服務管理件者又は学校監督者の職務命令に基づき研修を受講させる必要がある。万が一職務命令に従わないような事例が生じた場合は、地方公務員法……に規定する懲戒処分の要件、……に当たり得ることから、(任命権者は、事案に応じて必要な措置を講じる必要がある。)

 

 日本の社会では、高度の専門性を要求される教職の「専門家」は21世紀の現在においても、依然としてその多様な高い専門性を無視され、せいぜいデリゲンチャとみなされ、管理と統制の対象となっている。それを如実に証明してみせたのが、文科相に意を受けた中教審小委員会を舞台とした教員免許更新制度の「廃止」問題めぐる審議であろう。教員は、どんなに高度であっても、たんなる専門的な知識や技術を習得しただけでは、その職務を全うすることはできないのであって、そのため、かつて佐藤学が強調したように、「反省的実践家」としての力量が求められ続けているのである。

 最後に、半世紀以上も前の1966年に、ユネスコとILOが共同で加盟各国に勧告した、「教員の地位に関する勧告」を紹介したておきたい。教員が専門職であるとすれば、それに相応しい研修とは何かが、端的にして指摘されている。

 

5 教育の仕事は、専門職とみなされるものとする。教育の仕事は、きびしい不断の研究をとおして獲得され、かつ、維持される専門的知識および特別の技能を教員に要求する公共の役務(公務労働…松浦)の一形態であり、また、教員が受け持つ児童・生徒の教育および福祉に対する個人および(教員集団としての)共同の責任感を要求するものである。

      ユネスコ・ILO特別政府間会議「教員の地位に関する勧告」(1966.10.5)

Ⅲ 指導原則 5

 

                            (2021.11.15)