2050年カーボンニュートラル宣言

2050年カーボンニュートラル宣言

執筆:講師 花田一磨

 去る2020年10月26日に行われた菅内閣総理大臣の所信表明演説において温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロとする目標が宣言されました。この鍵となるのは次世代太陽電池、カーボンリサイクル等革新的なイノベーションであるとされ、省エネルギーの徹底、再生可能エネルギーの最大限導入、安全最優先の原子力政策の推進、石炭火力発電に対する政策の転換が述べられています。温室効果ガスインベントリオフィスの日本の部門別二酸化炭素の直接排出量の割合を見るとエネルギー転換部門、つまり発電等が約4割を占めており、この部門における対策が重要だと言えます。そこで、今回は青森県にかかわりの深い再生可能エネルギーと原子力発電に関する動向を調べてみましょう。

 

【再生可能エネルギー】

 太陽光発電や風力発電をはじめとした再生可能エネルギー発電は発電時に温室効果ガスを排出しない、資源の枯渇の心配がない等、従来の発電方法よりも環境負荷が小さいといった特長があります。このため、石油代替エネルギーとして技術開発が、そして今日においては脱炭素電源として普及が推進され、青森県でも国内最大規模の太陽光発電所、日本一の導入量を誇る風力発電機群を見ることができます。しかしながら、発電コストは従来型の発電方法よりもまだ高く、また、発電の適地があっても送電線の都合で電気を送ることができないため再生可能エネルギー資源のポテンシャルが活かせない、といった課題もあります。2050年カーボンニュートラルを実現するために拡大が期待されているのは青森県にも促進区域がある洋上風力ですが、上記課題の解決のために、ポテンシャルを活かすための送電線の整備や空きの柔軟な活用を行い、最大限の導入を図るとされています。

 

【原子力発電】

原子力発電は発電時に温室効果ガスの排出がなく、エネルギー資源の乏しい日本においては石油代替エネルギー・脱炭素電源として有望な発電方法です。青森県には東通原子力発電所がある他、原子力発電所の燃料であるウラン資源の再利用を行うための原子燃料サイクル施設、そして未来のエネルギーである核融合の実験研究施設があるなど関りがとても深いものです。しかしながら、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故、原子力発電の一時全停止、高経年炉の運転終了等、厳しい状況が続いています。このため、原子力規制委員会「原子力安全文化に関する宣言」の行動指針の第1に掲げられている「安全の最優先」の下、信頼の回復と地元の理解を得ながらの再稼働に向けた取り組みが進められているところです。

 

【エネルギー基本計画を読んでみよう】

 今回は先の宣言で述べられた発電に関する技術開発について調べてみました。所信表明演説の直後に行われた梶山経済産業大臣の臨時記者会見では、これらの他にエネルギー分野の取組みとして水素が挙げられています。水素は燃料電池自動車の燃料としても使われており、おいらせ町にも民間の水素ステーションがあります。会見ではこのような自動車での利用からさらに進め、新たな資源としての活用が述べられています。都市間距離の長い青森県では自動車がほぼ必須ですので、水素インフラの整備が進み、環境負荷の小さいクリーンエネルギー自動車が普及することが期待されます。

 最後になりますが、この会見ではカーボンニュートラル実現のための道筋は総合資源エネルギー調査会とグリーンイノベーション戦略推進会議で議論すると説明されていましたので、現在、改訂に向けた議論が開始している第6次エネルギー基本計画に上記内容が反映されると思われます。取りまとめは2021年になりますが、これからの日本のエネルギーを知るためにも読んでみたいですね。