増田陽一郎「物造り【電子材料・物性】は人造り【教育】-温故知新-」

八戸工業大学同窓会報第11号掲載記事(2007年3月発行)

物作り{電子材料・物性}は人造り(教育)―温故知新―
 名誉教授 増田 陽一郎 先生(2007年3月退職)

 私は恩師東北大学工学部、電子工学科の和田正信教増田教授授の推薦により昭和47年3月に仙台の東北大学・電気通信研究所から八戸に赴任して参りました。第1回生は機械工学科・産業機械工学科100名、電気工学科80名を迎えて入学式が挙行されました。学年が進むにつれて電磁気学、電子計測、通信工学、オプトエレクトロニクス、電子工学実験、卒業研修などの講義を担当致しました。

 私の研究はセラミックスの光学デバイスへの応用を目的としましたものです。ホットプレス装置を用いて電気光学用セラミックスの開発研究を行ないました。その成果を纏めて「画像表示用透明PLLZTセラミックスの研究」により東北大学より工学博士の学位を取得しました。これは馬場明さんや学生さん達の協力により達成できたものであります。私の研究のオリジナルはロシアの科学アカデミー会員のスモレンスキー博士の提案された複合ペロブスカイト化合物の合成理論によるものです。1982年の夏、日ソ強誘電体シンポジュウムがシベリヤのノボシビルスク学園都市で開催されました。その時、スモレンスキー博士と同席し、意見交換する機会がありました。当時既に博士はロシアの科学アカデミー会員でありました。またサンクトペテルブルグ大学の強誘電体研究グループの重鎮でもあり、精力的に材料・物性の研究されておられました。その成果がロシアの材料物理学会誌に数多く報告されていて、私はその文献の中から多くの有益な知見を得る事が出来ました。私達にとってその論文を読むことは密林の中から宝の山を掘り出す思いでした。

 その後、私の研究テーマは、マイクロ波、非線形光学、強誘電体薄膜メモリ材料の研究へと進展して行きました。これはデバイスの小型集積化、低電圧駆動化、高周波化、高機能化の要求による技術革新の流れに沿うものであります。もう一つの研究は平成8年から5年間にわたり行なった日本学術振興会、未来開拓学術研究推進事業研究、次世代人口物質・材料の探査的研究「誘電体薄膜の複合制御による高性能化と機能変換の多様化の研究」のプロジェクトリーダーを務めた研究であります。この成果は日本の不揮発性強誘電体薄膜メモリー(FRAMデバイス)の開発に大きな貢献をしております。今まで本学で遂行した研究の集大成として増田陽一郎研究業績論文集(1)、(2)に纏めました。それを本学の図書館に寄贈致しました。

 研究以外での活動は日本工業技術者教育認定機構(JABEE)の受審のために、改革室長として全学的事務処理や計画などに協力致しました。また、アメリカ・ウエスレー大学との語学研修を始め中国瀋陽工業大学、新疆大学と大学院後期博士課程の国際学術交流を進めました。その調印に法人や学内の有志の教職員と参加致しました。このように本学は創立当時から初代学長小和田武紀先生の提唱された「良き技術は良き人格から生まれる」と言う教育理念により教育研究を行なってまいりました。

 私は研究室を持って35年が経過し240余名の卒業生を(学部学生、院生)を実社会に送り出しました。私は学生に独創的な技術により社会に貢献出来る事を目標に指導して来ました。最近、卒業生の中から2-3名がベンチャー企業を立ち上げ業績をあげ始めました。卒業生は大学にとって大きな宝です。技術革新は温故知新です。学校法人理事、大学改革室長、大学院電子電気専攻主任、電気電子工学科学科長として本学の発展のために活躍の場を与えて下さった学校法人に心から感謝致します。また私の為にご支援を下さった卒業生、教職員の皆様に感謝致します。大学つくりに参加出来た事は私の青春を賭けた35年間のドラマでした。