スモールサイエンスの挑戦

スモールサイエンスの挑戦

執筆:教授 石山俊彦

 今年もノーベル賞が発表され,残るは表彰式となった。毎年,秋になると,新聞や科学雑誌では受賞分野や日本人の受賞など,様々な予想が紙面を賑わす。ノーベル賞の選考過程は50年後に公表されるので,過去の受賞にどのようなドラマがあったかをうかがい知ることもできる。今年は,化学賞に旭化成名誉フェロー 吉野彰さんが受賞された。受賞おめでとうございます。
 さて,電気電子工学に近い分野のノーベル賞としては物理学賞が挙げられる。物理学賞は「素粒子・宇宙分野」と「物性分野」が交互に受賞している。順番から考えると,2019年は「素粒子・宇宙分野」であったが,実際に「系外惑星(宇宙分野)」で受賞者が決まった。
 この「素粒子・宇宙分野」は代表的な「ビッグサイエンス」の分野でもある。現代の素粒子物理学や宇宙物理学は,世界最大級の研究設備を必要としている。研究を実施するための費用も巨額となり,近年は一国の科学予算では賄いきれず,国際協力が盛んに行われている。その結果,研究グループへの参加者は数百人規模になることも珍しくない。
 こうしたビッグサイエンスの流れに対して,伝統的に「スモールサイエンス」と呼ばれる数人程度の規模の研究も盛んに行われている。数人規模の研究であれば,それ程の研究予算や設備も必要とせず,研究者のアイデアで勝負することになる。スモールサイエンスは物性物理学の分野では健在であり,ノーベル賞を受賞することもある。
 では,今後,「素粒子・宇宙分野」でスモールサイエンスによってノーベル賞級の成果を出すことは可能だろうか?筆者は理論系であれば可能であるが,実験系であればかなり難しいと考える。実験物理学では,実験や観察により検証することが求められる。現在の実験は,超がつくような精密なレベルの測定が要求される。そのため,高精度で高価な大規模装置が必要とされ,小規模な研究グループが巨大グループに優る実験データを出すことは難しい。
 ただし,物理学の世界では,長年解決されなかった問題というものがいくつもある。多くの場合,科学者たちはこうした問題に興味を失い,誰も解決しようとせずに取り残されている。こうした未解決の問題を新規なアイデアによって解決することで,ノーベル賞級の成果を出すことができるのではないか。スポーツの世界で見られるように,コストパフォーマンスの良いチームが巨額の投資をしたチームを破ることは面白い。ユニークなアイデアとバイタリティでスモールサイエンスの世界を興隆させてくれる若者の出現を期待する。