マイルストーン

マイルストーン

執筆:教授 川本清

 明けても暮れてもCOVID-19が話題である。紙製品の買いだめ行動にはじまって,インスタント食品など十分な供給力のある製品まで一時的に品薄になったり,マスクなどの医療・衛生関連必需品の需給が逼迫したり。大学にいる我々に身近なところでは在宅勤務や遠隔授業ニーズの高まりでOA機器周りの一部の消耗品が払底するなど,感染症ひとつで凄まじい影響が及んでいる。私には経済がわからないが(いや,大概のことはトンとわかっていないのだが),これも負の乗数効果というものだろうか。
 風邪の特効薬ができればノーベル賞ものだ,とは巷で口の端にのぼる風聞のひとつだ。ある意味,それは現実味がないと捉えられていることの裏返しともいえるだろう。コロナウイルスは風邪の原因とされるウイルスの一種だから,素人目にも抗コロナウイルス薬やワクチンの開発は簡単ではない様に思える。しかし,「必要は発明の母」ともいう。ニーズの高まりは解決策の探索の助けになるだろう。半導体におけるムーアの法則ではないが,資金と人材の大量投入は研究の進展を加速するだけでなく,その成果は関連する周辺分野へ広く波及するかもしれない。たとえばデータサイエンスを応用する創薬のインフォマティクスが洗練されると,より一般的な化学物質や固体材料の設計についてのインフォマティクスもずいぶんと進むだろう。そして,そんな新開発材料を用いたエレクトロニクスは現在とはまた違った使い方がなされるようになるかもしれない。
 少し古い映画だが,水が枯れて作物に大打撃を受けた男の話があった。彼は井戸を掘り進める。が,水は一向に湧かない。いつまで掘り続けるのかと尋ねると,来年も,再来年も掘ると答える。それでも水が出なかったらと尋ねると,彼は言う。「その頃には十分な貯水槽ができあがる!」
 COVID-19は時代を画すマイルストーンとなりそうだ。近づいてみると,巨大すぎてその先の道行きはなかなか見通せない。もしかすると,まだ道なんてないのかもしれない。自粛だ,活動抑制だといった中で,今をどう過ごすのか。それが次の一里を拓くのだろう。
 あなたは,何をしますか?

 図1 (a) 近鉄奈良駅前にある奈良時代の僧,行基の像。治水や墾田開発を手掛けた。「井戸」を掘り続けた人といえるかもしれない。(b) 東大寺盧舎那仏像。疫病や社会不安を払うため造立された。その指揮を執ったのが行基である。 (c) 地球深部探査船「ちきゅう」の掘削やぐら。いわゆる「井戸」ではないが,地球に孔を穿って研究をしている。これらの写真の縮尺はおおよそ (a):(b):(c)~1:6:28 である。