ロボットコンテストの審査員

ロボットコンテストの審査員

執筆:准教授 神原利彦

 コロナ・ウィルスの脅威が全世界的に拡大拡散するわずか数週前という2月9日に、青森県上北郡六ヶ所村にある六ヶ所総合体育館にて「第21回青森県・げんねんジュニアロボットコンテスト」が行われた。平時は、なぜこんな「変な時期(2月)」に行うのかという批判を浴びていたコンテストであるが、「変でない時期」の3月、4月に行われるはずだった様々なスポーツの競技会、ライブ、学会などが、次々に中止・延期になっていった状況を見ると、逆説的な言い方になるが「変な時期で良かった」と言えなくもない。コンテストの大会関係者には失礼な言い方であるが。そんな中、筆者はロボットの専門家という立場で審査員としてこのコンテストに参加した。

 このコンテストは青森県内各地にある「少年少女発明クラブ」に所属する児童たちが大小様々なロボットを操作して競技する大会である。クラブに所属できる学年は小学校4年生〜中学校2年生である。コンテストは、ロボットの規模に応じて、初級、中級、上級と3部門に分かれており、比較的低学年の児童が初級部門に、高学年の児童が上級部門に出場する傾向にあるようだ。初級と中級は土台となるロボットが全て同一の仕様であるため、純粋に「操作のコンテスト」となっている。同じ仕様なので、練習を積んで操作のうまい児童が勝つ傾向にある。その一方で、上級部門は土台となる部分までを「出場する児童」それぞれが考え独自に作り上げた個性のあるロボットで競技する。このあたりは、自動車レースの下位カテゴリーF3などではワンメイクのレースカーで競技するのに対し、F-1のような最高峰カテゴリーではどのチームも独自に設計・開発したレースカーで競技するのと良く似ている。つまり、上位カテゴリーになればなるほど、競技以前のメカの開発と準備が勝敗を分けることになる。

 筆者は、このコンテストの上級部門において、アイデア賞を選出する役を担当することとなった。競技の勝敗とは無関係にアイデア的に優れたロボットに与えられる賞である。これを選出する上で特に重視したのは「独自性」である。いかに他の人と違ったことに挑戦するか?という心意気である。機構の独自性を評価した。競技内容はテニスボールとソフトボール多数を木に見立てた台の上に置いてあるものをターゲットにして、ロボットアームでボールを把持し、制限時間内に、いかに多数のボールを定められた場所に運んで置くかというのを競うものであった。多くのロボットは図1のような機構であった。垂直に向けた直線リフトに沿って回転軸が上がり下がりして、目標物のある高さまで回転軸を引っ張りあげたら回転軸を回して飛び出た棒を木の枝の間に差し込んで、グリッパー(把持器)をボールに接触させるという機構だ。細かい違いはあれ、ほとんどの児童がこの図1の機構のロボットを作っていた。だが、ある児童だけが図2のように回転軸2本を平行に保ちながら直線リフト2本に沿って上げ下げする機構に挑戦していた。図3が現実のロボットの写真である。この機構には回転軸を中心に回転モーメントを加える必要がないという利点がある。その一方で平行を保つのが難しいという問題がある。現に、テニスボールやソフトボールを把持して重量がかかると平行を保てなくなっていた。だが、コンテストでも数個のボールを運ぶことができ、多少の平行の崩れはものともしないことを見せてくれた。競技には敗北してしまったが、その児童の挑戦的な姿勢に感服し、筆者はアイデア賞を贈った。

図1:リフト1本と回転軸1本

図2:リフト2本と回転軸2本

図3:アイデア賞受賞ロボット

図4:競技の例(別のロボット)

 審査員として、舞台裏(バックヤード)にも注目し、空き時間に各クラブの整備場をのぞいてみた。すると、リモコンのレバーを動かしてもロボットが動かない状況をなんとか直そうと四苦八苦している児童とか、競技で使う機材と同一の機材を使って黙々と操作の練習に励んでいる児童とか、様々な児童が、様々な状況に遭遇して、なんとか自分の頭で考えて困った状況を打破しようと行動している場面を見ることができた。各クラブの指導員の方も、色々と手伝っているが、やはり児童に考えさせて児童自身に作業させることが多いようだ。指導員の方が代わりにやればすぐ問題点は解決するだろうけど、そこは時間がかかっても児童に作業させている。教育には、(教員がやった方が早いという場面でも)我慢して生徒にさせることも必要だ。

 このコンテストの模様は、3月20日に青森テレビで放映されたので、青森県内の様々な人々に視ていただけたようである。例年ならセンバツ(春の高校野球:今年は大会中止)ばかりを視てるはずの野球ファンの方々までコンテストの録画放送を視ていただけたようで、ありがたい限りである。現時点(7月)でも、コロナ・ウィルスの騒動は一向に収まる気配がない。それでも、願わくば来年の2月にも、このコンテストの審査員をつとめて、ロボット製作・操作に懸命に取り組む児童たちを激励したいものである。